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エリートのフリをするな。(司馬先生の警告?)

 司馬遼太郎氏の作品でも「坂の上の雲」は好きな一つだ。
 物語は伊予松山に始まり、俳句から現代文を確立した正岡子規、その友人・秋山真之と兄の秋山好古が海陸の将として日露戦争に臨むまでを描いている。題名からして、明治のエリート達がいろいろと思索を練って必死に生きている姿を想像させる。責任を持つ個々がそれぞれに働き、なんとか日本の骨格を向上させた時代といえる。

 そこで、司馬遼太郎を批判する一文を目にした。
 Snobist Club 孤言的時評-司馬遼太郎的言説の限界

 司馬さんは大正のお生まれで、いわゆる明治憲法下の教育を受けた人物である。多分に明治エリートの美風も残っていただろうし、憧れがあったことは言うまでもない。「坂の上の雲」は、己の力を知り適切な対応をとろうとした、明治人たちの生き様を称えている。
 秋山好古陸軍大将(日露戦当時は中佐ぐらいだったか)の晩年、孫達に戦争時のことを聞かれて、

 「おじいちゃんは負けてばっかりだったよ」

 と語った一節が「坂の上の雲」にある。好古は騎兵科を専門とし、体格のよさから西洋馬もよく乗りこなせたらしい。しかし、満州の戦場に日本軍の少ない軍馬ではあまり効果が無く、偵察要員として利用する以外に馬の機動力を生かす場はなかったらしい。さらに騎兵隊が時代遅れになりつつある事情もあり、この10年後の第一次世界大戦では戦車が登場するぐらいである。
 それで好古は当時の最新兵器・機関銃の配備をおこない、コサック兵に襲われるたびに、馬から機関銃を下ろして掃射する。そうやって戦闘力の不足を補い、なんとか戦線を支えた。騎馬の特徴を生かしたいという思いよりも、まず欠点を見極め、負けない対策を練った。秋山好古という人物の冷静さ、ひいては明治のエリート達が持つ責任感が「坂の上の雲」の屋台骨となっている。

 こうした上で、日露戦後の指導者達が勝ちに驕って、冷静な判断力を失っていく様にも触れており、明らかに現代人(昭和人)への警告が見受けられる。
 この警告が大変重要なはずだが、多くの読者諸君は自らの姿を秋山兄弟や正岡子規に当てはめることに終始し、己の力量や取り巻く環境の厳しさを忘れる効能のみを利用した。これでは日露の戦勝に酔った指導者たちと同じではないか?気が付けば、逆効果になっていたのだ。

 司馬さんはお気づきだったのだろう、映像化を許さないまま、泉下の人となられた。

 映像化されれば、戦闘場面がより強調され、たとえばロシア帝国の迫害を嫌ったユダヤ人からの資金供与、あるいは大英帝国の思惑や明石元二郎の革命煽動などの、他からの働きかけが埋没してしまう状況を予想したのだろう。
 ただの戦争モノ、それが「日本はよく戦った」との印象・いや精神論が表に出すぎては、周囲の環境(社会・自然)や時代の流れによる後押しを忘れがちになる。なにより、秋山兄弟や子規の苦心とその後の指導者の対比が弱まり、『警告』の効果が薄れてしまう。

 幸い、映像化による害?は免れたが、エリートの立場だけを夢見て、エリートが背負う責任や義務付けられる冷静な判断力を忘れる人々が後を絶たない。司馬さんはそこまでは言ってないが(言って欲しかったが)、民間の子規、政府側の秋山兄弟をとらえることで、襟を正して欲しかったのだろう。

 エリートの立場は、その他よりも大きな影響力を手にすることが出来る。官僚・政治家のほか大企業の役員管理職、学者評論家もそうだろう。
 この中で私の身近な存在は「大企業の役員」だが、どうもその「立場」のみを喜ぶ方々が少なくない。新技術を取り入れたさに予算や顧客への安全を無視したシステム担当役員の暴走、あるいは親会社からの点数(目標管理制度による)を稼ぎたいがためにオフィス改装を繰り返す総務担当。まあ、某大臣先生あたりよりははるかにマシだけども。

 疲れてきた。目先の欲が強くなりすぎて後先を忘れる人々、特に50代の方々に…。

 30年前、「坂の上の雲」からの警告を受けた若者はそう多くはなかったと思われる。
 当時はオイルショックが前後したとはいえ、高度経済成長期の最中。富める時代に厳しさを求めるにはあのような文章になったのだろう、「坂の上の雲」を書いた頃の司馬先生の難しさがしのばれる。

 追伸:NHKがドラマ化を予定しているそうです。ご夫人が映像化を許諾されたらしいけど、どうも危ない気が…

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