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転勤族とか

 自分が恵まれている、あるいは恵まれていたことに気づく機会は滅多にない。それが、三十路を過ぎるとさらに減るのは、先輩の言を待つまでもなく身に染みている。
 幸い、いくつかの出来事が私を、欲張りと愚痴の淵から救ってくれた。

 わが社のある役員は話を聞かない。私のような若手からの意見が「生意気」に聞こえるのは仕方がないにしても、ようやくタイミングを待って話した内容の結末をさえぎること数度。結果として私の意見が正しかったようで、気づかぬように軌道修正することもあった。
 そして窮地に陥ると『それは屁理屈や。』でかたをつける。俺が追い詰めている?のかもしれないが、取り付く島がない・・・

 とはいえ、この役員は憎めない人である。が、今思っていることを大急ぎで実行に移すようなことがあり、すべての計画を平行して進めよと旗を振り、優先順位をつけることを知らない。
 「(現時点の人員25%にあたる)拠点を新規開設せよ」「全社規模の情報分析システムを立ち上げよ」「自動音声応答装置を入れ替えよ」…すべて2月にやれとのたまう。部下たちは話を聞かないことを知っているから、黙ってやるか、骨抜きにしてわからないようにサボるかのどちらかだ。
 
 我が仕事の相棒は言う。
 『転勤族はひとつ土地にいられない怖さがある。だから結果を急ぎすぎるんだよ、俺もそう』

 そう、この役員も相棒も転勤族育ちであった。相棒は「部署再編」と聞くと必要以上に騒ぎ出す、加えて同僚上司後輩部下の微細な変化にまで気に留めては、いちいち俺に報告してくる。
 自分が影響できない変化、というものに多大な恐怖を抱いているらしい。
 幼いころから親の仕事の都合だけで各地を転々とした彼らは、焦るようにして形を作ろうとする。そして何よりも、表向きには人を信用しない。『あいつの本性を暴いてやる』となど平気で言う。

 「本性を暴く」と言ったのは、私と同い年にあたる転勤族の女性だった。
 飲んべえで男勝り。反面女らしいとも思える脆さが同居していた。飲みが進んだ俺は彼女を軽くしばくしぐさをすると、『私は女よ!』と怒鳴られた記憶がある。

 その彼女は、29歳の若さでなくなった。
 前後事情からして、自殺と思われる。

 学生時代から続けていた?夜のバイトを指摘されて逆上したとかいろいろな噂が立ったが、もう気を張り詰めているのに疲れたのだろう。最後に彼女を見たときを思い出した俺は、勝手にそう解釈している。彼女の勤め先で特に同期は結婚が早く、取り残された感も後押ししたのだろう。

 苦しかったと思う。ただ冥福を祈りたい。

 そして、俺が転勤族の子でなかったことに感謝したい。
 親にありがとう。 

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